弥六沼釣紀行
”「釣人物語 緑の水平線」の1シーンが脳裏を過ぎる”
2008.10.18~19
つるやさん(山城さん)の紹介で、裏磐梯五色沼の一部である弥六沼へ出かけてきた。
東北自動車道を郡山JCTから磐越自動車道に乗り換え、猪苗代・磐梯高原ICで下りると、桧原湖方面に向かい約20分ほどのところにある。 弥六沼は裏磐梯高原ホテルのプライベート・ポンドであり、一日あたりボート5杯までしか釣りをすることができない。 そのため、予約さえ取れればのんびりとした釣りが保障される。
裏磐梯高原ホテルの本館は一見瀟洒なレンガ造りのようにも見えるが、近づいてみると鉄筋コンクリート3階建のようで外壁にはレンガ大の木片が張ってある。 廻りの自然と上手く調和し、なかなか風情ある佇まいである。
高速道路を下りた辺りでは未だ木々も青々としていたが(猪苗代湖:標高514m)、桧原湖(標高822m)辺りまで標高が上るとちょうど雑木が6分から8分ほど赤や黄色に色づいていた。 弥六沼のグリーンの湖面には磐梯山や色づき始めた紅葉などが映り、自然が織り成す彩には目を見張らされる。 ティーラウンジでコーヒーを飲みながら弥六沼の湖面を眺めていると、其処此処でまるで大ゴイでも跳ねたかのような激しいスプラッシュ・ライズが!
残念ながら、弥六沼では釣りのできる時間帯に制約が設けられている。 日中、ボートはホテルの宿泊客に解放されるため、午後は3時から日没まで、午前中は日の出から9時までしか釣りをすることができない。 此処まで遥遥やってきてあたふた釣りばかりしていることもないし、裏を返せばその時間帯だけでも十分満足のいく釣りが可能であると僕は受け取ることにした。
先ずは桧原湖岸でもドライブし、適当なところで腹ごしらえした後、釣り支度の準備にかかることにした。 今回用意した竿は、Lt Col Oborne "Tenacity" 9'6" #7である。 この竿は外付けのスピアが装着可能であり、スピアを肘宛代わりにすることができるためシングル・ハンド・ロッドながら大物とのやり取りが非常に楽である。 また、購入してから気がついたのだが、バットのストリッピング・ガイド裏面にメイフライが描かれており、ビルダーの遊び心が伝わってくる竿でもある。
弥六沼には幾筋かの湧水も流れ込んでおり、この時期でもトビケラを始め、カワゲラ(種不明)、カゲロウ(種不明)、ユスリカ(オオユスリカ?)と水生昆虫も非常に豊富である。 特にサハリントビケラ(上図)、ニセウスバキトビケラ(下図左)、ホソバトビケラ〔下図右)といったものが、素手で捕獲できるほどよく目に付いた(ニセウスバキトビケラ、ホソバトビケラについては、野崎隆夫さんに標本を送付して同定していただいた)。
しかしながら、手持ちの書物で自分なりに調べてみたときには、ホソバトビケラをヤチアミメトビケラ、ニセウスバキトビケラをトウヨウウスバキトビケラと思っていた。 これは、僕が所有している水生昆虫関連の書物にはホソバトビケラが載っていなかったため、姿かたち・生息場所などが一番よく似ていると思われるヤチアミメトビケラと勘違いしてしまったことと、 ウスバキトビケラ、ニセウスバキトビケラ、トウヨウウスバキトビケラは非常によく似ており、交尾器の形状で確認しなければならないところ、安易にも最も普通に見られるトウヨウウスバキトビケラと思い込んでしまったことによる。 偶然ながら、サハリントビケラは先日のJAIS乗鞍高原・上高地例会で野崎隆夫さんから教えていただいたばかりなので、標本とも見比べ先ずは間違いないはずである。 このように専門的な知識に加えて実体顕微鏡など適切な設備がない限り、水生昆虫は成虫でさえ(モンカゲロウ科のように特徴が顕著なものを除いて)なかなか種を同定することは困難なことである。
弥六沼で釣れるマスはニジマス・オンリーであるが、規模も小さく(弥六沼湖岸を巡る遊歩道の散策には15分ほどかかるそうなので、 周囲は1kmほどであろうか?)と水深(測ったわけではないので正確性は期していないが、最深部でも数mくらいではないだろうか?)があまりないせいか、殆どのものが回遊しているように見受けられた。 そのため、風の方向や陽の当たり具合などでマス(=エサとなる昆虫)の溜まる場所も凡その見当がつくので、比較的釣り易いポンドである。 また、ボートにはアンカーが設置されていないので風任せの何とも贅沢な釣りが楽しめる。
有難いことにベイト・フィッシュは入れていないようで、ドライ・フライへの反応が頗る良い。 自然に近い状態で育ったマスのコンディションはこの上なく素晴らしいもので、午後の数時間竿を振るだけでも十分満足させられるほどである。 65cmもあるニジマスがこれぞと信じたドライ・フライを銜え、糸鳴りをさせながら竿を満月に絞り込んでくれると、例え太物のティペット使っていようが一時も気が抜けない。 もうハラハラドキドキの連続で、心臓に悪いくらいであった!
大マスをリリースする際、ふと、林房雄著「釣人物語 緑の水平線」(浪漫発行)の裏磐梯のとある湖におけるフライフィッシングの1シーンが僕の脳裏を過ぎった。 バーブレスフックを使用しているのだから、敢えてネットで掬うのではなく、マスが疲れる前にわざとティペットを掴んで糸切れさせてやった方が良かったのであろうか・・・・・。
(N.Suzuki)