# JFCC Japan Fly Casting Club
ジャパン・フライ・キャスティング・クラブ
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菅沼釣紀行

”初心に戻って”

2007.8.4~5

心配していた台風も山陰から日本海に抜けてくれたので、幸先の良いスタートがきれたと思っていたのだが・・・・・。とんだハプニングが待ち受けていた.

七時に菅沼キャンプ場の駐車場に集合の約束であったが、Hさんが待てど暮らせど一向に姿を現さない。 間違えて日光白根山・菅沼登山口の駐車場にいるのかと探しに行くが、やはりいない。 この辺り、携帯は圏外でまるで役に立たないので、公衆電話から呼び出してみたのだが、呼び出し音が聞こえてくるばかりで電話を取ってくれない・・・・・。

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これはひょっとして何かあったのではと心配になってきたが、他の仲間達も今回の釣行を楽しみに、朝起きをして早々と集まってきていたので何時までも待たしておく訳にはいかない。 八時過ぎに出船するも、何か気がかりでボート乗り場のよく見える辺りで竿を振ることにした。

少々風があるので、Hardy Coronation 9'に、シルクライン(WF8I相当)を巻いておいたSt. George 3 3/4"をセットする。 昨日と比べ気温が大分下がったようで、飛び交う虫も少なく、ライズはほとんど見られない。 ドライフライでの釣りは、午後にならないと難しいかもしれない。 竿は振ってはみたものの釣りにはなかなか集中することができない。 たまたま掛かった大物も手堅く玉網で掬えば良いものの、自然な状態で写真を撮ってやろうと、横着にも左手で竿を持ち、右手でカメラを構えてピントを合わせようとやり取りしていると、ふとした拍子にフライがマスの口から外れ逃がしてしまった。

昼食は清水沼と弁天沼の接続部の括れた辺りの浜に上陸し、暫し寛ぐもやはり気になる。 食事を済ませ、午後は少しは真面目に釣りをしなくてはと、何気なく清水沼の方に目をやると、・・・・・。 こちらにゆっくりと向かってくるボートの上には、バーブァを着込んでハンチングを被った見覚えのある出で立ちの釣り師が。 訳を聞くと、目が覚めたら九時を過ぎていたようで、自分は何で此処に居るんだろうと不思議に思ったそうである。 五十年釣りをやっていてこのようなことは初めてだと云っていたが、・・・・・。 ともあれ何事もなかったようでほっと胸をなでおろす。

午後は、先ずHさんに菅沼のドライフライフィッシングの楽しさを味わってもらおうと、僕のお気に入りのポイントを案内する。 幸い、そのポイントの近所にアンカーを下ろしているボートは一艇もない。 僕は少し沖目から、広い視野でライズリングを探す。 散発なライズはあるものの定位置で繰り返すライズはなかなか見つからない。

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この辺り、水深が30m以上もあるためドライフライを振る釣り人は殆どいないところである。 たまたま、風裏の水面が鏡のように静まり、目をつけていた辺りでライズが始まった。 すかさずHさんにポイントを指示すると、お見事、第一投目で水面が炸裂する。 マスはhalf-pounders(trout-size steelhead)にも対応できるように設計された西海岸時代のWinston Trout 8'6"を満月に撓らせ、ジャンプを繰り返しながら湖中を縦横に走る。

フライラインが左手に向かって深く沈んで見えるのに、マスは右手で跳ねる。 傍から見ていると、ドラドがルアーを銜えてジャンプする「オーパ」の1シーンを思い出させてくれる。 この辺り、年越しの野生化したマスが中心のようで、魚体は美しくファイトも素晴らしいものである。 Hさんにも、充分楽しんでいただけたようである。

前の晩殆ど寝ずにいたせいもあり、菅沼が初めての方にも湖のドライフライフィッシングを楽しんで頂けたようなので、漸く肩の荷も下り、ドッと疲れが出てきた。 水分もろくに取らずにいたため足もつり始め、竿を納めることにした。 環湖荘にチェックインするとOさんご夫妻も合流し、食事をしながら、先ずは生ビールで乾杯。 食事の後も一部屋に集合し、持ち寄った酒や肴を賞味しながら夜が更けるまで反省会。 窓の外は、篠つく雨。 梅雨が明けて湖面の水温も上昇してきたところへまとまった冷たい雨。 ターンオーバーが気にならない訳ではないが、「明日は良い日」と、ひたすら信じつつ楽しい釣りの話で気を紛らわす。

信ずるものは救われる。 一夜明けると、青空も覗く良い天気! 一風呂浴びて、釣り支度を整えておく。

環湖荘の朝食は七時半から。皆が集まるとついつい話がはずみ、食事を終えてチェックアウトを済ましたころには、もう八時を大分廻っていた。 本日も遅い出漁となってしまった。 珍しく風もないので、C.C.de France 9'を継ぎ、僕にとっては細めのティペット(5X)にホットオレンジのエルクヘアーカディス#10を結ぶ。

心配していたターンオーバーも忘れてしまうほど、鏡のように静まり返った湖面ではあちらこちらでライズリングが・・・・・。 ところが、何故か僕のフライにはまるで反応しない。 特にミッジを捕食しているようなライズではないため、おそらくティペットを見切っているのであろう。

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風が出てマスのフライへの反応がよくなるまで、山側の湖岸周りのポイントの偵察に出てみることにした。 やはり岸際にはウグイがかなり棲息するようになった。 上擦ったマスも見えるが、フライをまるで無視しているかのようである。 これでは僕の釣りではまるでお手上げである。 一度、ウグイの群れが水面をピョンピョン飛び跳ねるのを目撃した。 おそらく飛び跳ねたウグイの下にはフィッシュイーター化したマスが追っていたのであろう・・・・・。

湖岸を半周し、弁天沼入り口辺りにやってくると、弁天沼から吹き込む風によって湖面が波立ち、流れてきたテレストリアルを待ち受けるマスのライズがポツリポツリと・・・・・。 幸い辺りには釣り人の姿はなく、これはしてやったりと思いきや、一投目はすっぽ抜け、二投目もすっぽ抜け、三投目は力み過ぎて合せ切れ。 仕掛けを作り直し、四投目、よそ見をしていたら向こう合せで竿先が引き込まれる。 当然、深くフッキングしていないので、バーブレスフックでは竿を立ててみても魚の重みは感じない。

すっかり自信をなくしてしまい、何て釣りが下手になってしまったのだろうかと落ち込む。 なんとかしていつものリズムを取り戻さなければ、・・・・・。 この調子が続いたのでは、午前中はおろか一日やったっておでこになり兼ねない。 ところが、追い打ちをかけるように、五投目もすっぽ抜け。

菅沼でノーストライクを経験したことは一度もない。 ライズも少なくなり、時間的にも次のキャスティングが午前中のラストチャンス。 一瞬、不安が脳裏を過るも、最後には菅沼の女神は微笑んでくれたようだ。 ところが、えてしてこんなときに限ってバラしてしまうものである。 午後の良き釣りにつなげるためにも、何としてでも釣り上げなくてはならない。 慎重にも慎重を期して取り込んだ結果、ついに獲物はネットの中に横たわった。 やれやれ・・・・・。

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お昼は浜に上陸し、皆で環湖荘で作ってもらった弁当を食べながら午前中の情報交換を行う。 やはり、午前はティペットを7Xまで落としたものに分が有ったようだ。

午後からは適度に風も吹くようになり、浜から清水沼を眺めていると弁天沼から吹き込む風が湖面を適度に波立たせ、午前中に釣ったポイントのやや西側に朧気ながら潮目も形成されている。 幸い、辺りには一艇のボートもいないようだ。これを逃す手はない!どうやら、午後から運気は一転したようである。

目指すポイントから20ヤードほど離れた風上にアンカーを下ろし一服していると、マスが回遊してきたようである。 ところどころでライズやモジリが始まった。 ライズリングの風上にそっとフライを落とすと、あっさり一投目からマスはフライを銜える。 午前中の釣りがまるで嘘のようである。

2匹、3匹と掛けると群れは移動してしまうが、流石に2日続けてボートを漕いでいたので、ライズを追ってまで積極的な釣りをする元気は出ない。 次の群れがやってくるまでチョコを食べたり、ポカリスェットを飲んだりして時間をやり過ごす。 居付きのマスは、一度脅かしてしまうとなかなか口を使わなくなってしまうものだが、回遊マスは静かに待っていさえすれば、マスの付き場には必ず別の群れがやってくるものである。

振り返ってみると、午前中は「今日こそは、良い釣りを!」と意気込んでいたせいもあってか、本来の自分の釣りがまるで出来なかった。 それでも、午後からは自分の釣りができるようになり、何とか野生化したマスの引き味も堪能することができた。 やっぱり、釣りは楽しくなければ釣りではない! 初心に戻り、雑念を捨て去り、おおらかな気持ちで、如何にしたら自分の釣りに徹することができるかをよ~く教えてくれた2日間であった!

P.S.

皆さん、それぞれ思い思いの釣りができたようで楽しい2日間であった。 帰路、いろは坂を下った辺りから、急に雷雨が激しくなってきた。 流石、雷の本場だけあってちょっとそこらの雷とは訳が違う。 車のフロントガラス一杯に電光が炸裂し、一瞬、目があけられなくなるほどである。 釣りをやっているときに、こんな雷に遭ってしまったら、一体何処に逃げたらいいのだろうか・・・・・。

(N.Suzuki)

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